夢で出会った香り

 

 

冬の終わりが近くなると、どこからともなく、甘い香りがただよってきます。
この、沈丁花の甘い香りで、春の訪れを感じる人も、少なくはないことでしょう。

この沈丁花は、雌雄の株がわかれている植物なのですが、日本で植えられているのは、ほぼすべてが雄株なのです。
そうなると、どうやってここまで増えたかが、気になってしまいますね。

また、この花には、薬効もあります。
花を煎じたお茶を飲むと、喉の痛みが和らぐといわれています。
葉は、腫れものを鎮めるのに有効とのことです。
しかし、花の後に実る赤い実はそうではありません。この実は有毒なので、食べたりしたら、最悪の場合、死んでしまうこともあるそうなので、注意しましょう。

中国では、こんな伝説が残っています。

その昔、廬山というところのあるお寺に、比丘という名のお坊さんが住んでいました。
このお坊さんが、お寺から出て山に入ったところ、ぽかぽかの陽気のなかで気持ちよくなって、いつしか眠りこんでしまったのです。
比丘は、その眠りの中で、ある夢を見ました。
その夢には、いままでに出会ったこともないような、甘く情熱的でいて、印象に残る香りを放つ木が出てきたのです。その木の香りは、目覚めてからも忘れることができないほどの印象を残しました。
比丘はいても立ってもいられなくなり、夢の中で出会った香りの木を探す旅に出ました。
その旅は長く、訪れた箇所も少なくはありませんでしたが、どこを探しても、夢の木には出会えません。
でもある時、とある山で、とうとうその香りを見つけたのです。
夢の中で出会った香りは、山にあった小さな木がつけていた、花から放たれものでした。
比丘は、その花を持ち帰ることにし、「夢で出会った香りの花」という意味の「睡香」と名付けました。
沈丁花の別名には「瑞香」というものがありますが、読み方は同じでも、字は違います。
これは、後にこの話を知った人が、「睡」を「瑞」に変えて、「瑞香」としたためだといわれています。