天使に愛された乙女

 

 

梔子は、夏の香る花のひとつですね。
この花は、雨上がりの黄昏時には、さらに強い香りを放つといわれています。

名前の由来は、実にあります。
梔子の橙色の実は、いくら熟しても、決して口をひらくことがないのです。
このことから、「口無し」と呼ばれ、それがいつしか「梔子」に変化したといわれています。

西洋では、花が、男性が女性に贈る最初の花とされたり、嫁の持つブーケに使われたりすることから、愛をはぐくむ花とされています。

実は、衣類や食べ物の染料として使うことができます。
衣類の染料としては、「源氏物語」の「箒木」の章にも触れている箇所があるので、読んだことがある人もいるのではないでしょうか。
食べ物を染める際には、栗きんとんの黄色い色や、江戸時代に食べられていた「梔子飯」などが有名ですね。

また、梔子には、薬効もあります。
実は、止血剤や、筋肉痛、捻挫などの薬として使用できるのです。
ただし、実を煎じたお茶が熱いうちに飲むと、さらなる吐血を誘う場合があるので、注意が必要です。
変わったところでは、きのこ中毒にも効用があるといわれています。

梔子には、こんな伝説があります。

西洋のある場所に、ガ―デ二アと言う名の乙女が白い館に住んでいました。
彼女は白い色が好きで、調度もすべて白で揃えており、いつも、白いドレスを着て、髪には白いリボンを結んでいたのです。
ある日のこと、そんな彼女のもとに、ひとりの天使がやってきました。
天使は、ひとつの橙色の実をガ―デ二アに渡し、「この実は、天国に咲く花の実です。木の実を育てて、花が咲く頃になったら、花に口づけしてください。一年経ったら、もう一度ここに来ます」と告げました。
実を持ち帰ったガ―デ二アは、鉢に実を植え、「天国の花」を大事に育てたのです。
そして一年が過ぎる頃、実は育ち、甘い香りを放つ白い花を咲かせたのです。
この花が、地上で最初に咲いた梔子の花であるといわれています。余談ですが、梔子には、魔を祓う効果があるともいわれています。これも、「天国の花」といわれる所以でしょう。
白い花を見たガ―デ二アは、天使の言葉を思いだし、花にそっと口づけました。
すると、一年前のあの天使がガ―デ二アのもとに現れ、そして彼女に求婚しました。
ガ―デ二アは天使の求婚をうけました。
結ばれたふたりは、末永く幸せに暮らした…と伝えられています。

梔子の学名「ガ―デ二ア」は、この伝説からつけられたものでしょう。